子どものためのデザインに必要な視点とは何か
オーガナイズドセッションの概要
子どものためのデザインには,一般のデザインに求められる(大人のための)視点とともに子どもならではさまざまな視点が必要になります.
あえて子どものためのデザインが必要であると言うのは,対象を大人とする時に当たり前と思われている考え方では通用しない「何か」が必要であるということに他ありません.
そこで,今回は,子どものためのデザインとして独自の視点とは何か,と言う問いに答える第一歩としたいと思います.
そのためには,先ず,子どものためのデザインと言われている様々な取り組みを俯瞰し,それらに共通する視点や要点あるいは異なる点を考えてみることにしました.
子どものためのデザインの具体的な取り組みの事例として,生活,教育,医療などの幾つかの代表的な取り組みを紹介し,独自の視点やアプローチからディスカンションを通して,今必要とされている子どものためのデザインに必要な独自の視点や要点は何かを明らかにしたいと思います.
さらに,明らかになった独自の視点や要点を通して大人のデザインを考える契機にしたいとも考えています.
パネリスト & 指定討論者
(発表順)
発表内容
[子どものデザインワークショップの実践]
天野典子:公益財団法人せたがや文化財団・プロデューサー
1980年代ころから博物館施設などにおいて「ワークショップ」という手法が盛んに行なわれるようになり,ワークショップデザイナーやファシリテーターの養成講座が始まったり,ワークショップの知財についても議論されるようになりました.
数多行われているワークショップですが,現場にいながら「ワークショップってなんだろう?何が正解なのだろう??」とその輪郭はつかみきれないのが本音です.
学校の工作や美術の授業からはみ出して,足りないと思われる「子どものデザイン教育」について,地域の文化施設として何が出来るのか,ここ10年試行錯誤しながら実践してきました.
生活工房の子どものデザインワークショップについてご紹介しつつ,現場担当として思うところや課題などをお伝えできたらと思います.
[頭と心と体を結びつける遊び]
小宮加容子:札幌市立大学デザイン学部・講師・博士(工学)
子どもは遊びを通して,自分を知り,人を知り,そして自分を相手に知ってもらい,世界を広げていきます.嬉しいとキラキラした笑顔になり悲しいとポロポロと涙があふれ出ること,言葉にならない気持ちを絵で表現できること,積み木を使ってモノとモノの関係性を知ること,ごっこ遊びを通して自分ではない誰かの気持ちを想像すること・・・.
2011年より札幌市立大学デザイン学部の有志の学生団体「あそびlab! オヘソ」と一緒に,年間3~4回の遊びイベント開催や環境カルタ制作,玩具移動販売自動車の外装デザインなど,子どもや遊びに関するものづくりの活動をしています.そこでは,子どもが能動的に遊びに参加し,さらに遊びを発展させていくことができるように,遊び場・道具づくり,大人の関わり方など工夫をしています.
今回は,今までに実施した遊びイベントに合わせて,遊びをデザインするにあたって配慮・工夫している点についてご紹介したいと思います.
[子どもに対するプレパレーション]
服部淳子:愛知県立大学看護学部・教授・博士(心理学)
プレパレーションとは,子どもの病気や入院によって引き起こされる様々な心理的な混乱を和らげるために心の準備をうながすことです.例えば,手術とはどういうことなのかを説明しなければなりませんが,説明に使うツールによって子どもの理解度も変わってきます.つまり,ツールのデザインで,プレパレーションの効果は大きく変わるのです.しかし,現場では,看護師の手作りのツールが多く用いられているため,安定した効果が期待できていないということもあります.
プレパレーションで重要なのが,情報の提供方法です.自分の身に起こること,その順番などをどのように効果的に知らせるかは,ツールのデザインに寄るところが大きいと感じています.また,処置治療の説明に加えて,頑張りの可視化も同じくらい重要なのです.
今回,小児看護の現場では,どのようなツールに期待しているかということをプレパレーションの実施に向けた内容を説明することで,また,実際にデザイン側と共同開発したツールとその実験について言及することで,子どもために必要なデザインを読み取っていただければと思っています.[子どもの感性を評価する手法]
政倉祐子:愛知淑徳大学メディアプロデュース学部・講師・博士(学術)
現在,数多く行われているワークショップでは,見る・聞く・考える・話し合う・描く・作る・・・といったように,さまざまな体験を通すことにより,子どもの学びがより豊かになるような工夫が施されています.一方で,このようなワークショップの評価として,終了後にアンケート等で得られるのは,「○○がおもしろかった,楽しかった」といった部分的・一面的な感想が多く,ワークショップの企画・設計の改善につながりにくいことがままあります.
ワークショップで子どもたちが感じているのは,「楽しい」「おもしろい」以外にも「わくわくしている」「うまくできた」「むずかしい」等,もっと多様な印象であるはずです.またそれらの印象は,ワークショップのプログラムの中で変化していくものと考えられます.
そこで今回は,ワークショップの中での体験・行動の結果として感じている印象を子どもの感性の働きと捉え,ワークショップのプログラムの進行に沿って,多面的に評価する手法についてご紹介したいと思います.進行
主旨を説明した後,パネリストの方々に一人20分程度で順次発表して頂きます.
パネリストの発表を受けて指定討論者に発表して頂きます.
全5名ですので,100分程度になります.残り20分程度で会場との質疑応答を予定しています.
オーガナイズドセッションの主旨は,概要のとおりですが,もう少しくだけた言い方をすれば,大人のデザインの流用やちょっと子どもっぽくではままならないこと,それはこういうことなのだ,ということを明示できればと思っています.
そこで各ご専門の立場から「子どものための(ワークショップ,デザイン,看護,評価分析・・)の考え方」を各20分でご紹介頂くわけです.
指定討論者を設けたのは,
- パネリストの軸となるキーワードをまとめる.
- それぞれの軸の共通点が何であるか示す.
- 指定討論者の研究内容を絡めながら軸をもう少し太くして示する.
これにより,子どものために必要な視点を明確にしたいと考えたからです.この後,オーガナイザーが,聴衆者に振って各パネラーへの質問を促します.すでに指定討論者がまとめていますからあえてもう一度まとめることはいたしません.
当日の様子
オーガナイズドセッション
15:15〜17:15
テーマセッション
子どものためのデザイン部会によるテーマセッション
6月13日(土) 9:00〜11:00
口頭2会場(2階F22室)
A2-01 子供の街並み絵巻プロジェクトから生まれたファンタジーの世界
笠尾 敦司 *,**(東京工芸大学大学院 芸術学研究科 メディアアート専攻 デザインメディア領域 *, NPO 法人クリエイティブスマイル **)
A2-02 能動アート「ナースコール・アート」ワークショップの実践と評価吉岡 聖美 *, 三谷 篤史 **, 蓮見 孝 **(明星大学 *, 札幌市立大学 **)
A2-03 不登校の子どものための高尾山学園を支援するデザインプロジェクト
工藤 芳彰(拓殖大学)
A2-04 ワークショップ参加者の工程による気持ちの変化の分析
若林 尚樹 *, 政倉 祐子 **, 田邉 里奈 ***(東京工科大学 *, 愛知淑徳大学 **, 千葉工業大学 ***)
A2-05 「 むすびめくん」を用いた NPO 広報の子供むけ教育コンテンツ化
松川 小枝子 *, 笠尾 敦司 *,**(NPO 法人クリエイティブスマイル *, 東京工芸大学大学院 芸術学研究科 メディアアート専攻 デ
ザインメディア領域 **)
A2-06 子供の映像情報メディア・リテラシー育成のためのデザイン
石井 晴雄(愛知県立芸術大学)6月13日(土) 13:00〜15:00
口頭2会場(2階F22室)
B2-01 子どもを対象としたセルフワークショップにおける印象評価の試み
谷口 由佳 *, 赤井 愛 **, 若林 尚樹 ***, 政倉 祐子 ****(大阪工業大学大学院 *, 大阪工業大学 **, 東京工科大学 ***, 愛知淑徳大学 ****)
B2-02 重症心身障害児・者の入浴補助具の研究
中村 詩子 *, 青木 幹太 **(北九州市立総合療育センター *, 九州産業大学芸術学部 **)
B2-03 視覚に障害を持つ子どものためのワークショップの試行
田邉 里奈 *, 若林 尚樹 **(千葉工業大学 *, 東京工科大学 **)
B2-04 子どもの能動的参加を促し、遊び場を構築する道具や手法に関する基礎的研究
福田 大年 , 小宮 加容子(札幌市立大学)
© 2015